130年の歴史を紡ぐ〈今治タオル〉の町でアップデートを重ねる注目メーカー。村上パイル株式会社代表取締役 村上政嘉さん

2025.01.28

130年の歴史を紡ぐ〈今治タオル〉の町で
アップデートを重ねる注目メーカー。
村上パイル株式会社代表取締役 村上政嘉さん

無添加石けんの製造・販売を通じて、皆様の暮らしをよりよくすることを目指す「シャボン玉石けん」。このコーナーでは、私たちと共鳴する志を持ち、真摯なモノづくりに取り組む企業や人々をご紹介していきます。

日本全国どこにでも、郷土が誇る特産品があるもの。例えば、愛媛県今治市の〈今治タオル〉のように。ここは日本製タオルのうち、国内シェア5割超えを誇る日本最大のタオルの生産地。使い込むほど心地良い品質は海外でも評価されています。
そんなタオルの聖地に、今では珍しくなった“無添加”のタオルを作るメーカー「村上パイル」があります。同社を率いる村上政嘉社長を訪ね、今治タオルや自社商品への想いを語ってもらいました。

村上パイル株式会社
1960年、愛媛県今治市にて「村上織布工場」創業。1967年から「村上パイル株式会社」となり、伝統産業である〈今治タオル〉の製造・販売を手掛けている。時代のニーズに応じた商品開発にも果敢に挑戦。特に洗練されたデザインや色使いのバリエーションが豊富で、幅広い年齢層から支持される専門メーカーだ。

フワフワと柔らかな肌触りが大人気の今治タオル。今やジャパンブランドを代表する商品の一つですが、まずは今治市が産地となった背景を教えて下さい。

村上社長
もともと愛媛は、江戸期から綿業と織物業が盛んな土地です。愛媛産の綿布は質が良く、「伊予木綿」と呼ばれ大阪や京都で人気を博しました。その後、大阪で技術を学んだ阿部平助氏が明治期(1894年)にタオル製造を開始。これが今治タオルの出発点と言われます。
また小雨温暖な気候や、蒼社川という良質な水源に恵まれたのもタオル製造には好条件。この環境のもとでノウハウを積み重ね、やがて今治はタオルの一大産地となります。

大阪〈泉州タオル〉、三重〈おぼろタオル〉と並び、日本三大タオルとも言われた今治タオル。戦前は大阪が最大の生産地でしたが、1950年代に愛媛が首位に立ちました。

村上社長
戦時中は空襲で焼け野原になった今治ですが、先人の努力で復興を遂げた後は右肩上がりでした。昭和の終わり頃が最盛期で、メーカーの数も大小含め約550社あったそうです。
ですが、平成になると安価な中国製品が増えて売上は頭打ちに。現在「今治タオル工業組合」の加盟メーカーは79社で(2024年10月時点)、国内で流通するタオルも8割が海外製です。2007年に私たちが〈今治タオルブランド商品〉プロジェクトを始めたのも、こんな状況を改善したいとの想いからでした。

それは、ここまで語られた今治タオルとは別のものですか?

村上社長
簡単に説明しますと、当組合のメーカーが地元で作ったタオルはすべて〈今治タオル〉です。一方〈今治タオルブランド商品〉は、特に優れた品質の今治タオルに組合が専用ロゴマークを与えたもの。つまり〈今治タオル〉の中で、さらに一級品と認められたロゴマーク付き商品が〈今治タオルブランド商品〉というわけです。
この認定を受けるには、吸水性・耐久度・色落ちなど12項目の検査にパスしなければなりません。検査は外部の機関が行うため非常に厳格。特に吸水性は重要で、10mm角のタオルを水に浮かべ、5秒以内に沈まなければ不合格です。

普通のタオルは20秒程で沈むそうなので5秒はすごい。このプロジェクトは確実に今治ブランドの向上に貢献していますね。多少値段が高くても、品質や耐久性が良いからコスパは抜群。長く愛用するなら〈今治タオルブランド商品〉を選びたいものです。 さて、ここからは「村上パイル」さんの商品についてお聞かせください。

村上社長
当社商品の特長は、デザインやカラーバリエーションが豊富なこと。デザイン性・色・肌触りの3要素を使い分け、5つのシリーズで個性的なラインナップを展開しています。
創業者である父の時代はタオルケットが主力でしたが、私が継いだ後は新商品に力を入れ、月に1度は企画会議や打ち合わせをしています。特に「MiRT(ミルト)」シリーズは、北欧家具のインテリアに似合う洗練された仕上がりが好評です。

そうした最先端のラインをお持ちの一方、御社には昔ながらの“無添加”のタオルがありますよね。

村上社長
「エコタオル」ですね。製造のきっかけは、1998年頃から様々な分野で環境に配慮した商品が登場し、私たちもそういう商品を送り出せないかと考えたこと。そこで社員と話し合い、製造工程で化学薬品を使わない──つまり“無添加”のタオルを作ることにしたのです。
あらゆるメーカーに言えることですが、現代のタオル製造の現場では化学薬品の使用が避けられません。例えば草木染め以外の染料がそうですし、洗う時には化学洗剤を使いますし、織っている最中には糸が摩擦で傷まないよう潤滑剤的な化学薬品を塗ることもあります。

なるほど。そうした要素を一切排して作られたわけですね。エコタオルに込めたこだわりを教えて下さい。

村上社長
まず、原材料の糸を染めないので商品は無地の生成りです。ちなみに先ほど触れた潤滑剤は、ジャガイモのでんぷん由来の糊を代用することで解決しました。
また、織る前の糸や織りあげた生地には洗い加工を施しますが、そのための洗剤として選んだのが御社の「粉石けんスノール」です。後日、御社の先代社長・森田光德さんにお会いしましたが、この商品のコンセプトに共感いただき、以降御社のキャンペーンなどで弊社のタオルを使っていただけるようになりました。

肌の悩みを持つ方はもちろん、独特の柔らかい感触を好まれる方にも人気だと聞いています。

村上社長
そこがまさに「粉石けんスノール」の効果ですね。糸の原料の綿(わた)には意外と油分が多いのですが、普通は化学洗剤で洗うとほとんど抜けてしまいます。でも「粉石けんスノール」だと油分がほどよく残り、綿の傷みも少なくナチュラルな風合いになるのです。

どの分野もそうですが、昔ながらの製法を再現すると、逆に手間やコストがかかるもの。今治でも同様の商品が見られないのはそれが理由でしょうか。

村上社長
そうだと思います。だからこそ、エコタオルは私たちにとって原点回帰であり、チャレンジでもありました。今後も大事に作っていきたいですね。ただ、元々安全基準が厳格な今治タオルは通常の商品でも赤ちゃんが安心して使える品質ですので、そこは改めて強調させて下さい。

紙を原料に使った「Washi kare-sansui(和紙 枯山水)」というタオルにも興味を惹かれました。これは水に溶けないのですか?

村上社長
よく尋ねられますが(笑)、本当に溶けません。岐阜県美濃市の和紙を2mmに切って撚りをかけ、タオルに織り込んでいます。和紙を「再利用できる循環型の自然素材」として捉えたもので、シルクに似た肌触りが特徴。かなり珍しい商品ですが、日本よりもドイツでよく売れますよ。

ある意味エコタオルにも通じる商品ですね。では最後に、今後の御社の展望を教えて下さい。

村上社長
まずは、この町に受け継がれるモノづくりの心を忘れないこと。テクノロジーと手仕事の良さを融合しながら、今治タオルの文化を守っていきます。そのうえで新たな商品開発を進め、さらに今治タオルを国内外に発信したいと考えています。アジアではかなり浸透していますが、硬くて厚めのタオル生地が主流の欧米ではまだまだ。それでも、展示会などで今治タオルに触れた方は「こんなに柔らかいの?」と驚かれるので可能性は大いにあると思います。

しかし、私の一番の夢はこれかもしれません。朝の洗顔や風呂上がりにフワフワのタオルがあると、なんだかとても幸せですよね。そんな瞬間を、当社のタオルで少しでも多く皆様にお届けできたら──。これこそタオルメーカーの本望だと思っています。

あまりに身近すぎて、その価値に気付きにくいモノがあります。タオルもその一つであり、良いタオルは暮らしを豊かにするアイテムであることを改めて感じた取材でした。たゆまぬ革新の志で多彩なタオルを送りだす「村上パイル」が、これから今治タオルをどう変えていくのかも非常に楽しみ。多彩な商品も選びがいがあるので、公式サイトで“お気に入りの1枚”を探してみてはいかがでしょうか。