30歳で社長に就任。そのわずか半年後、先代が他界。父の志を受け継いだ森田社長の歩みと信念、素顔に迫る。シャボン玉石けん代表取締役社長 森田隼人

2025.01.28

30歳で社長に就任。そのわずか半年後、先代が他界。
父の志を受け継いだ森田社長の歩みと信念、素顔に迫る。
シャボン玉石けん代表取締役社長 森田隼人

2020年2月に創業110周年を迎えたシャボン玉石けん株式会社。1974年に先代社長の森田光德氏が無添加石けんの製造・販売に切り替えたことで、売上は1%未満に、100人いた社員が5人にまで減るという危機的状況に。その2年後に生まれた息子の隼人氏は30歳で社長に就任し、今ではグループ売上高96億円(2024年2月期)、社員120人まで成長しています(インタビュー当時)。森田社長に自身と会社の歩みや思い、今後の展望まで本音で語ってもらいました。

「自分が跡を継ぐことになるのだろう」「であれば出来るだけ早く父のそばで学び、吸収したい」と入社

森田社長は子どもの頃、お父様の仕事や会社についてどう思われていましたか。

森田
父は家で仕事の話をしなかったのですが、わが家には当社のさまざまな商品があり、父の会社で作っているということは分かっていました。友達の家に行けば、いろいろなニオイがするカラフルなキャラクターもののシャンプーなどがあるけれど、うちにあるのは白い石けんで。ちょっと変わった会社なのかなという印象でした。父が『自然流「石けん」読本』を出版したのは私が中学生の頃。当時、父は自宅で執筆をしていて、私は原稿の裏紙を勉強用に使っていました。勉強の合間に表側の原稿を読み、「へー、こういう会社なんだ」と初めて会社のことを深く知りました。

自分が跡を継ぐという意識は幼少期からあったのでしょうか。

森田
幼い頃、将来の夢に「消防士」と書いた記憶があります(笑)。それに、両親から会社を継ぐように言われたこともありません。でも私は長男ですし、いつか自分が継ぐのかなという意識はありました。現実的に考え始めたのは、大学生になってから。ひとり暮らしをして、他社のボディソープや食器洗いも使ってみました。

他社の商品を使うと、自社のものとは違うと感じましたか。

森田
合成洗剤と石けんは、製法も出来上がったものも全く異なるものですので、やはり違いは感じていました。当時、東京では地元と違い当社の商品が手に入りにくく、当社の通販を利用し、当社の会報誌を読む機会が増え、父の想いをさらに知ることができました。就職活動の時期には跡を継ぐと決め、他社で数年働いてから帰るか、新卒で当社に入るか迷いました。私は父が45歳のときの子で、父はすでに60代後半だったので、早く一緒に働きたいと思い、卒業後すぐに入社しました。

お客様の声に感動し、企業理念に支えられて前進

入社後はどんな仕事をされたのか教えてください。

森田
最初は工場に配属されて、石けんを作る釜炊きのプロセスに関わりました。それから各部署をひと通り回り、通信販売の部門ではお客様から届いた手紙をたくさん読みました。すると、当社の石けんを使い始めて「肌荒れがなくなった」という喜びと感謝の声があふれていて、本当にいい商品をお届けできているのだと感動しました。
その後、主に全国の営業を担当しました。ただ、当時はとにかく安さを求める風潮があり、当社の商品は一般的なバイヤーさんにはなかなか受け入れてもらえませんでした。それでも、合成洗剤より無添加石けんの方が人にも環境にも絶対にいいという自信はありました。

2007年、30歳という若さで社長に就任されました。

森田
新卒で入社して翌年に取締役、さらにその翌年には25歳で副社長になっていました。父は役職が人を育てると考えていたようです。30歳で社長になりましたが、父が会長として伴走してくれるはずでした。ですが、半年後に急に他界してしまって…。それでも途方にくれずに済んだのは、「健康な体ときれいな水を守る。」という企業理念があったから。私も社員も同じ方向を向き、心を一つにして前に進むことができました。

社長になってから、どんな目標を掲げてきましたか。

森田
先代と同じく「石けんの良さを伝える」ことをいつも第一に考えてきました。本当に安心安全なものを作って、皆さんにお届けする。半世紀前から、それをブレることなくやり続けてきました。

組織づくりにおいて心掛けていることがあれば聞かせてください。

森田
120人程度の会社なので、しっかりコミュニケーションを取り、風通しのいい組織を目指しています。私の代になってから部署と役職を増やし、若くても責任ある仕事を任せ、だけど、失敗を恐れずチャレンジできるような社風や体制を作ってきました。役職を担うことで、一人ひとりがその立場で物事を考え行動し、大いに力を発揮してくれます。その結果として、会社の業績が上がっていると感じます。2024年6月に新オフィスを立ち上げたのですが、そこではカフェスペースを設けて、コーヒーを豆から挽いてゆっくり飲めるようにしました。1人分ではなく数人分のコーヒーを淹れて、みんなで飲むことを推奨しています。もともと社員間のコミュニケーションは活発な風土ですが、よりよくしていくことを目指した取り組みです。

社員の平均年齢が若いことは、御社の特徴の一つですね。

森田
今の平均年齢は35歳で、30代前半で部長になるのは100年企業としては珍しいでしょう。会社は1974年に5人から再起し、新卒採用も多いため、若い組織になっています。

小学生からの手紙がきっかけで出した広告が話題に

無添加石けんの良さを広めるために、さまざまな活動をされています。

森田
先代のときから普及活動は積極的に行っていて、今でも私や他の社員も講演会や勉強会には積極的に取り組み、工場見学にも力を入れています。講演は全国や海外もあり、小学校から大学まで学校をはじめPTAや経営者、大きなイベントなどに呼んでいただくことも。工場見学は年間1万5000人ほどが来られます。

講演ではどんな反応がありますか。特に印象に残っているエピソードがあれば聞かせてください。

森田
合成洗剤が入った水によって、魚がのたうちまわって死んでしまう映像は皆さんにとって衝撃的なようです。驚かせてしまいますが、現実を知っていただくことは大切だと思っています。
一番印象に残っているのは、2018年に札幌で講演したときのことです。講演後に多くの方が私のところに来てくださって、その中のお一人が、小学2年生の息子さんが化学物質過敏症ですごく大変だとお話されました。数日後に息子さんから届いた直筆のお手紙には、教室中に漂う柔軟剤のニオイ、つまり香害で学校に行けないと書かれていました。

小学2年生で香害に悩まされていたのですか。

森田
香害の存在は知っていましたが、そんなに切実で辛い思いをされている方の声を聞いたことがなかったので・・・、ショックを受けました。香料を使う人に悪気があるわけではないけれど、困る人がいることを知ってもらいたい、何とかしなければと使命感にかられ、全国紙2紙に意見広告を出しました。

インパクトのある広告ですね。反響はいかがでしたか。

森田
ものすごく反響があり、ヤフーニュースのトップにも掲出されました。大きな企業が当たり前のように使っている人工的な香料に警鐘を鳴らすような内容でしたので、反発やクレームがあるだろうことは覚悟していました。実際はSNS上で「私も思っていた」「よくぞ言ってくれた」「この新聞を買って、職場に持って行く」などと共感の声があふれてシェアされました。うれしかった半面、潜在的に悩まれている方がこんなに多いのだと改めて認識。その後も香害をテーマにしたショートムービーを作ったり、広告を出したりと、認知を広める活動を続けています。

「シャボン玉石けんは食べても大丈夫」というのは本当!?

改めて、御社の商品の魅力を聞かせてください。

森田
まず自然環境中に流れ出ても分解されやすく、環境に優しいこと。そして、アトピーやアレルギーなど肌が弱い方々にも使っていただけることが魅力です。石けんは合成のものと比べて洗浄力が弱いと思われがちですが、洗浄力自体はしっかりありながら、身体に負担がかからないんです。

実はずっと気になっていることがあります。「シャボン玉石けんの石けんは食べても大丈夫」という噂を聞いたのですが、本当ですか?

森田
はい、本当ですよ。おいしくはないけれど、害がありませんから。普通の石けんは4~5時間で作れるのに、当社は昔ながらの製法にこだわっていて、大きな釜の中で原料になる油脂とアルカリと水を1週間ほど混ぜて作ります。その工程で、釜炊き職人が実際に舐めて出来具合を確認します。舌への刺激によってアルカリ度合いを確かめていて、まさに職人の勘がモノをいうところです。
お客さまから「ペットの犬を洗っていたら石けんや泡を食べたけど大丈夫ですか」とお問い合わせいただくことがよくあります。油脂なので大量に食べるとお腹をくだすことがありますが、基本的には問題ありません。

海外での販売、BtoB、消火剤事業に力を入れていく

会社の展望を教えてください。

森田
これまでと変わらず、無添加石けんの良さを多くの方に知っていただくことが私たちの使命であると考えています。合成洗剤は安くて便利なので、すぐになくなることはないでしょう。ただ、少なくとも肌の弱い方や環境を意識している方、妊娠から授乳期までの母親や無垢な赤ちゃんは石けんを使うことが当たり前になってほしいと願っています。

最近は自然派をうたう商品が増えてきました。

森田
そこは危惧しています。合成なのに自然派をウリにしたものが多く、気づかずに使って肌荒れに悩み続けている方もいます。成分表示をチェックして見分ける方法をもっと多くの方に知ってもらえればと思っています。

SDGsが注目されて、日本でも環境や健康への関心が高まってきたと感じられますか。

森田
CSRやSDGsによって、企業の意識や行動は変わってきたと思います。また、若者の意識も高まっているのか、新卒採用で当社に応募してくれる学生がかなり増えています。一方で、一般的にその意識が浸透していくにはまだまだ時間がかかると感じていたのですが、コロナ禍に当社の売上が大きく伸びました。ハンドソープはもちろん、洗濯用石けんやシャンプー、歯磨き粉まで軒並み伸びたのは予想外でした。新型コロナをきっかけに、安心安全への意識が高まったのかもしれません。

会社として、新たな動きがあれば教えてください。

森田
大きく3つあります。1つは海外での販売です。海外にも肌荒れに悩む方や環境を意識している方は多いはずなので、そういう方々に当社の商品をお届けしたい。すでにアジアを中心にアメリカやロシアなど7か国に輸出していますが、もっと広げていければと思っています。
2つ目は、病院や介護施設における無添加石けんの使用を拡大していくことです。医療や介護の現場では1日に数十回手を洗うために手が荒れるという悩みを聞き、手肌に優しく感染対策につながる実験結果を学会でも紹介しています。

3つ目は何でしょう。

森田
私が2001年から担当した消火剤の事業です。水が貴重な海外では、少ない水で早く火を消せる消火剤が開発されていました。日本では北九州市消防局が初めてアメリカの消火剤を輸入して使用したようですが、合成系の消火剤は泡がいつまでも消えず、環境への負荷が非常に高いことが分かりました。北九州市としては、いくら火が消えたとしても同時に生態系が壊れては元も子もないと、当社へ、石けん系の消火剤の開発を依頼するに至ったようです。北九州市立大学も一緒に産官学で6年かけて開発に成功しました。しかし、水が豊かな日本ではなかなか普及しづらいという課題がありながらも普及活動は続け、今JICA(国際協力機構)にご協力いただいて、海外でも特にインドネシアで普及実証を進めているところです。

最後に、森田社長のプライベートを知りたく、趣味を教えてください。

森田
息子が2人いるので、今は子育てが趣味になっています。息子の学校がシャボン玉石けんの工場見学に来ることになったとき、「恥ずかしいから、お父さんは出てこないで」って言われたんですけどね(笑)。これからも、仕事もプライベートも楽しみながら全力でやってまいります。