音楽を通して、一人でも多くの方に「心のビタミン」を届けたい指揮者 佐渡 裕さん

2025.12.05

音楽を通して、一人でも多くの方に「心のビタミン」を届けたい
指揮者 佐渡 裕さん

今回のゲストは、世界的に活躍されている指揮者・佐渡裕さん。レナード・バーンスタイン氏と小澤征爾氏という二大巨匠に師事し、現在は国内外の一流オーケストラを毎年多数指揮する、名実ともに日本を代表する指揮者です。2015年まで司会を務めた「題名のない音楽会」(テレビ朝日系)で、音楽への人並み外れた情熱と、それでいて親しみやすい雰囲気に魅せられた方も多いのではないでしょうか。

そんな日本が誇るマエストロが、先ごろシャボン玉石けんの工場を訪問。工場見学後にはインタビューも快諾いただき、指揮者という仕事の醍醐味や、佐渡さんのご家族もファンだというシャボン玉石けんへの想いをうかがいました。

佐渡 裕(さど ゆたか)さん
1961年、京都府出身。レナード・バーンスタインと小澤征爾に師事。1989年に新進指揮者の登竜門、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し国際的に注目される。以降、欧州を中心に世界中のオーケストラを多数指揮。2025年までの10年間は、ウィーンで110年の歴史をもつトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督も務める。国内では新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督、兵庫県立芸術文化センター芸術監督を務めるほか、「サントリー1万人の第九」の総監督も務める。「僕はいかにして指揮者になったのか」(新潮文庫)などの著書も多数ある。

福岡の中高校生と奏でた「奇跡の第九」は一生の思い出

現在は東京・兵庫・オーストリアを拠点に活動されており、スケジュールは2年先まで一杯だそうですね。今回は貴重なお時間をありがとうございます。さっそくですが、シャボン玉石けんとご縁ができた経緯をうかがえますか?

佐渡さん
きっかけは、2024年に指揮をした演奏会で、シャボン玉石けんさんに商品を提供いただいたことです。福岡県みやこ町の中高生や、福岡の市民の皆さんとベートーヴェンの第九を演奏したコンサートでした。

その模様は「キセキの第九 ~佐渡裕と育徳館管弦楽部の6年~」(九州朝日放送)というドキュメンタリーでも放送され、ドラマチックな“物語”が大きな反響を呼びました。

佐渡さん
彼らとの出会いは2018年でした。その年、サックス奏者の坂田明さんと対談するため行橋市を訪れたのですが、その際に地元の育徳館中学・高校の管弦楽部が野外で歓迎演奏をしてくれたんです。そういう時ってだいたい5分くらいの曲を演奏するのが普通なのですが、なんと彼らが選んだ曲は演奏時間が45分もあるブラームスの交響曲だったから「えっ、なんで?」と驚いて(笑)。
正直、技術は拙かったですよ。でも、キラキラした目で懸命に演奏する姿に惹かれてしまい、気づけば演奏を止めて、その後の対談予定の時間も忘れて急遽1時間以上、彼らを指導してしまいました。

佐渡さんの直接指導なんて、生徒たちには夢の体験です!

佐渡さん
僕も普段はそんなことをしないから、自分でも不思議でした。きっと、10代ならではの輝きに「何か」を感じたのでしょう。地方の公立校は管弦楽部を維持すること自体が大変だと思いますが、顧問の先生も情熱的でした。その時のことがずっと忘れられず、翌年も九州公演の合間に彼らを訪ねて練習を見に行きました。
すると彼らが「次は佐渡さんと本番の演奏がしたい」と言うので、3つの条件付きでOKを出したんです。①町の人に音楽の喜びを与えること、②音楽を通して町を活性化すること、③ティーンエイジャーが奇跡を起こせることを証明することを伝えました。

生徒さんの希望で曲目が「第九」になりましたが、日本で「第九と言えば佐渡さん」ですし、みんな知っているベートーヴェンの有名な曲ですよね。

佐渡さん
そうなんですが、実は演奏するとなると、音大生やプロの方でも非常に難しい曲です。しかし彼らはきちんと準備し、大掛かりな野外ステージも用意しました。そしていよいよ開催……というところでコロナ禍に見舞われました。合唱ができないため数年延期になり、一度は別の曲で演奏会を行ったものの、それはみんなの本意ではなかったわけです。最初に企画を立ち上げた生徒たちは卒業してしまい、本当に悔しかったと思います。

だからコロナ禍が落ち着いた2023年の秋に、もう一度、最初の約束を果たすべく、第九へのチャレンジ計画を立ち上げました。僕のアシスタント指揮者に生徒たちの練習を見てもらい、本番直前に僕自身が現地で総仕上げをするなどスケジュールは大変でしたね。
そうして迎えた2024年7月の演奏会。あれはとてもなんというか“感動的”でした。音楽って、単純に言うと空気の振動なんです。ただそれだけのことに町全体が一つになって、子供からお年寄りまでお祭りのように楽しんで。在校生や卒業生、学校長、町長さんまで参加した合唱団は260人にのぼり、まさに「みんなでつくるコンサート」でした。

地域を巻き込んだ一大プロジェクトですね。演奏会という枠に収まりきれない意義を感じます。

佐渡さん
総立ちで拍手する聴衆を見た時の達成感はすごかったですよ。スタンディングオベーションなんて、日本ではめったに見ない光景。「これは僕じゃなくて、子供たちがやり遂げたんだ!」って誇らしい気持ちでした。音程や楽器のバランス、響きのよしあしなど、音楽の評価基準はいくつもありますが、本当に大切なのは魂なんです。それが皆さんに伝わったのが何よりも嬉しくて。そう、彼らは「奇跡」を起こしたんです。40年以上の僕の指揮者人生でも特別な思い出になりました。

この他にも、佐渡さんは若い世代の育成活動に取り組まれています。

佐渡さん
はい。現在、僕は名門と言われる各国のオーケストラを指揮させていただいていますが、一方で、次の世代に何かを伝え届けることも使命であり義務だと思っています。兵庫で行っている「スーパーキッズ・オーケストラ」など、若者と向き合う機会を意識して設けているのはそれが理由です。僕の師匠だったバーンスタイン先生や小澤征爾先生がそういう方だったから、その影響も大きいですね。

個性豊かな奏者と共に、理想のオーケストラをつくる

森田
当社も、若者の夢を応援する佐渡さんの取り組みに共感し、何か応援したかったから、コンサートが開催された時は嬉しかったです。練習風景を拝見しましたが、世界的な指揮者が、地方の中高生に本気で向き合う姿には胸を打たれました。我々も、もっと地域の方々をバックアップできる活動を増やさないといけませんね。
佐渡さん
そう言えば当時、演奏会では御社の商品をたくさんご提供いただき、どうもありがとうございました。僕もお土産に持ち帰りました。
森田
そうでしたか。お持ち帰りいただき光栄です。それまで当社の商品をお使いになられたことはございましたか?
佐渡さん
実はありませんでした。あまり日用品にはこだわらないタイプなので(笑)。でも家内はシャボン玉石けんのことをよく知っていて喜んでいました。娘は少し肌が弱いのですが、シャボン玉石けんの商品を使うと症状がすごく楽になるらしいんです。
あれ以来、僕も使うようになって、今ではすっかり大ファンです。使用後のスッキリ感やツルツル感が、他社商品と全然違うんですよね。特に「シャボン玉せっけんハミガキ」がお気に入りです。

ところで、先ほどの工場見学はいかがでしたか?

佐渡さん
実際に拝見し、無添加石けんへのこだわりの強さや、それを実現する難しさがよく分かりました。誠実に作られた商品なので、もっと世の中に広まってほしいですね。それと、機械化された工程もありますが、釜炊きなど重要な部分は「人」が支えているのが印象的でした。
森田
シャボン玉石けんは、香料・着色料・酸化防止剤・合成界面活性剤を使わない無添加石けんにこだわり続けていますが、それをご理解いただき、さらに、私が肝となるのは「人」だと思っていることを感じ取っていただけて、非常に嬉しいです。

長年の伝統を守りつつ、新たな試みにも挑む」というシャボン玉石けんのポリシーは、クラシック音楽と似たところがありますか?

佐渡さん
僕はそう感じています。ベートーヴェンやモーツァルトが素晴らしい音楽を作曲したのは何世紀も前ですが、彼らが生み出した音楽を聴く喜びは今も昔も同じだと思うんですね。でも時代とともに楽器が進化し、音の組み合わせが広がる中で、クラシック音楽だけが同じままではいられない。何を守って、何を変えていくべきかは常に意識しています。

もっと言えば、僕はクラシック音楽だけにこだわっていません。ジャンルを問わず、いかに音楽で皆さんに「心のビタミン」を届けられるか──それが僕の求めることです。2024年の第九ではそれをできた実感があったし、生徒さんや聴衆の方も音楽の歓びを体感されたことでしょう。音楽の価値は、そうした感動を刻むことにあると僕は信じています。

その創造者である指揮者の醍醐味はどんなものですか? 指揮者を目指したきっかけと合わせてお聞かせください。

佐渡さん
小学生の頃からオーケストラの演奏会に通っていたので、指揮者には早い時期から憧れていました。指揮者が登場すると静かな会場に拍手が起き、タクトを振ると一糸乱れぬ演奏が始まって──今ならタクトはハリー・ポッターの魔法の杖に見えたでしょうね。

醍醐味は色々ありますが、やっぱり一番は全員で一つのものを創りあげることです。もちろん簡単なことではありません。たとえば大きなオーケストラだと100人以上の奏者がいて、海外なら、国籍、言語、背景が皆それぞれ違います。それを無理矢理「みんなでこうやろう」と型にはめると、まとまりはあっても音がおもしろくない。むしろ、一つになったと思ったら突然バラバラになったりするような、奏者の個性が自由に生きた音の方が立体的で胸に響くんです。

いろんな個性を一体化させるのが指揮者の役目だと思っていましたが、むしろ個性を生かすことなんですね。

佐渡さん
一定のルールは必要ですが、その中で各楽器の役割を限界まで発揮・機能させるのが僕の仕事です。ただ、奏者たちは聖人君子とは限らないので、そこに行くまでが大変(笑)。だから醍醐味と怖さはいつも背中合わせですが、指揮者なら誰でもそんなオーケストラを創りたいんじゃないかな。

どうしたらそんな一流奏者をまとめ高めることができるんでしょう?

佐渡さん
お互いの声を聞き、リスペクトし合うこと。僕はそれを徹底的に求めています。
そういえば第九もそういう曲ですね。すべての人々が兄弟姉妹になり、平和になろう。そのためにはまず抱き合いなさい、と。現代社会に必要なテーマを含んでいますよね。
森田
確かにそうですね。メンバーの個性を生かしつつ、同じ方向へ進むというのは会社経営にも言えることです。一定の規律のもと、社員が自由にアイデアを出したり力を発揮できたりする組織を、私も一人の“指揮者”として目指したいですね。

最後に、今後の目標を一言お願いします。

佐渡さん
一人でも多くの方に、音楽やオーケストラのおもしろさを伝えたいという気持ちはずっとあります。その実現のために「サントリー1万人の第九」や音楽番組の司会などの仕事もお受けしてきました。次の世代に何を残せるのか──それが今後のテーマですね。
そして、できればみなさんにもっとコンサートホールに足を運んでもらえたらなって。今は敷居の高い教養のように扱われがちなクラシックですが、作曲された当時はポップミュージックだったのです。音響の良いホールで目の前の空気が振動するナマのオーケストラ演奏を聴けば、きっとその美しさや壮大さ、心に響くメロディ、大人数で奏でる迫力やスリルなどを感じていただけると思いますよ。

世界的な指揮者とあって最初は緊張しましたが、実際はとても温厚で包容力のある紳士な佐渡さん。お話も実におもしろく、久々に生演奏でクラシックが聴きたくなりました。これを機に、皆さんも優美な音の世界に浸って「心のビタミン」を補給してみませんか?