伝統と革新が調和した茶事へと軽やかに誘う次世代の茶人茶道表千家准教授 岡田 宗凱さん

2025.12.17

伝統と革新が調和した茶事へと軽やかに誘う次世代の茶人
茶道表千家准教授 岡田 宗凱さん

伝統や格式を重んじながらも、既成概念にとらわれることなく、独自の視点で茶会の楽しみ方を提案する茶人・岡田宗凱さん。初心者向けのワークショップやオンラインの茶道講座などを企画する「世界茶会」を主催し、お茶との向き合い方やたしなみ、魅力を発信しています。世界11カ国で茶会を開き、国内外の著名人にもお茶を振る舞う岡田さんがとらえる茶道とは? 東京・品川に構える築105年の日本家屋の茶室「凱風軒(がいふうけん)」でお話をうかがいました。

岡田 宗凱さん
世界茶会 主宰/表千家 准教授 1982年東京都生まれ。茶道歴28年。東京・品川の茶室「凱風軒」で、月に3日のみ招待制の茶の湯のフルコースお茶事(ちゃじ)を開催。2020年3月よりコロナ禍でいち早くオンライン茶会を開催。VRや分身ロボットと最先端のテクノロジーを用いた茶会や「ニコライバーグマン」やパリの老舗パティスリー「ラデュレ」とのコラボレーションなど、国内外へと茶の湯の魅力を発信している。茶道は高校から学び、大学では日本大学芸術学部写真学科を専攻。アートディレクターとして10年勤務し、現在に至る。洗練された日本の美である茶の湯を広めたいという想いから、2007年に「世界茶会」を立ち上げる。これまで延べ7,000名以上にワークショップを開催し、赤坂迎賓館にて国賓のおもてなし、海外VIPアーティストのプライベート茶会、国内外の国際会議、商業施設でのイベントや企業での講演会、映像番組、コンテンツ協力、大学での講義、幼児向け茶会などを中心に活動は多岐に渡る。海外での茶会はアメリカ(NY)、フランス、オーストリア、チェコ、南アフリカなど全11ヶ国(14都市)で開催。著書『茶道美人』(新人物往来社、2011年)

高校時代に出会ったお茶の世界

オンライン茶会やワークショップなど、時代の流れを先取りした取り組みが注目されていますが、まずは茶道との出会いをお聞かせください。

岡田さん
お茶の家に生まれたわけでも、伝統文化に関心があったわけでもなく、きっかけは高校時代の部活動です。高校で出会い、大学進学と同時に先生の教室に通うようになりました。その後、サラリーマンを経て、今はお茶事を中心に教室をしながら、国内外でお茶会をしております。伝統や格式を重んじる世界では茶道具類を一から自分で集め、お茶を生業とするのは稀なケースで、こうして茶人として活動できているのは本当に奇跡のようなものです。

きっかけは高校の部活なんですね! なぜ茶道部への入部を決められたのでしょうか。

岡田さん
何の気なしに茶道部の見学に行ったときの外部講師の先生(今の師匠)の一言が決め手になりました。東京都立工芸高等学校グラフィックアーツ科に進学したのですが、そんな私たちに対して先生は「茶道は、書や花、陶器に漆、金属工芸、建築(茶室)に庭(露地)、着物に料理(懐石)、所作と総合芸術です。世界で活躍したいなら茶道くらいはやっておかないと」というお話をしてくださいました。幼少期から「夢は芸術家」と決めていたので、海外を意識した先生の言葉がすっと入ってきました。それから数年後、アメリカの茶会に参加した際、現地の学生から「茶の湯とは?」「禅とは?」という質問を受け、世界の茶道への関心の高さにカルチャーショックを受けました。お茶の経験はないけれど知識として知っている彼らと、経験はあるけれど知識を持ち合わせていなかった当時の私。言語化して伝えることの意義を認識する貴重な経験にもなりました。

感覚的に理解していることを言語化するのは難しいと思いますが、言語化して伝えることの意義をどのように捉えていらっしゃいますか。

岡田さん
お茶の世界では「問い」というのがとても重要で、亭主と客人が展開する問答にこそ茶会の楽しみがあります。亭主が客人を思って取り合わせた茶椀や掛け軸、床間の花にどのようなテーマが設定されているのか、ある種の謎解きをしながら一期一会の空間を味わう。お稽古は先輩の所作を見て学び、回を重ねることで身につけますが、茶会は問答があってこそ成り立つ世界です。そこで生まれる対話に意味があり、問答を通じて展開するコミュニケーションが茶会の醍醐味とも言えます。

他者との対話こそ茶会の真髄

お茶室の空間で問答と聞くと、初心者にはハードルが高いように思いますが、専門的な知識が求められるのですか?

岡田さん
茶会でいう問答は専門知識を要することもありますが、一人の個人として、何を感じ、受け取り、どう思い、どう考えるのかを問答します。社会的な肩書きや立場は通用しない空間で「あなたはどう思いますか?」「なぜそう思うのですか?」などの問いに、あなたはあなた自身の直心(じきしん)を言葉にします。他者と会話をしているようで、実は自分自身と対峙する時間。対話を通じて、人はより深く自身の内面と向き合うことになり、普段は気が付かなかった感情や蓋をしていた思いが溢れ出すという経験をされる方も少なくありません。
禅と深い関わりを持つ茶道は、「他者と対峙することで自らを知る」という側面も大いにあります。

普段はどのようなスタイルで茶会を開催されているのですか?

岡田さん
現在、月に3日のみ招待制の茶の湯のフルコースお茶事を開催しております。お茶事は茶の湯の集大成とも言われ、長きに渡って茶道を学んでいる方が参加されるものですが、私のところでは「茶道経験ゼロ」の方にも門戸を開いています。ます。その際、大事にしているのはお茶事の後の余韻です。お茶事が終わったら「帰り道やお家で、自分との時間を取ってください」とお伝えしています。私もみなさんの感想が気になり、その場でおうかがいしたい思いもありますが、会を通してご自身で感じたピュアな心と向き合っていただきたい。時に亭主にお礼状を書くことも推奨しています。もてなしてくださった亭主に思いをお伝えすることはもちろんのこと、ご自身の率直な気持ちをアウトプットすることで、気づきが整理されご自分のためになるという意味もあります。

作法や型にこだわるのではなく、自分との対話を通じて内観することが茶道の本質だったのですね。

岡田さん
内観することは茶道に限ったことではないと思うんです。私の場合は茶道を通じて心のあり方や物事の見方など、人生の指針となる教養を深めてきましたが、何を通じて身につけるかは、人それぞれだと思います。茶道じゃないと身につけられないというものはなく、スポーツや音楽、アートなど、それぞれの分野に哲学があるのだと、深い敬意をもってそう思います。茶道は厳かで特別なものに捉えられることがありますが、それはイメージだけかもしれません。伝統や格式を重んじることは大切ですが、「伝統」という言葉一つをとっても、その言葉の持つイメージはさまざま。「普遍的で変わらないもの」と答える人もいれば、「決められたことを守ること」と答える人もいる。漢字を紐解くと「伝統」の「とう」の字は、本来は燈篭の「燈(とう)」を使っていたそうです。火が消えないように常に誰かが油を注ぎ続ける必要がある。お茶の世界では、私も油の一部になり、自分なりの方法で未来につなぎたいと思っています。

点てたいと思えばいつでも、どこでも

インスタを拝見すると南国のビーチや大海原を望む岬など、かなり独自の路線で油を注がれていらっしゃいますね。

岡田さん
お茶席でのお茶もあれば、茶室から飛び出して自由に楽しむスタイルもあります。飛行機の機内やキャンプ場でも、茶碗、茶筅など最低限の道具とお湯があれば、場所に制約なくお茶はできます。

とはいえ、茶道は作法や所作にはきまりがあり複雑です。それを淀みなく行っていらっしゃいますが、実際に岡田さんがお茶を点てる時はどのような心持ちでいらっしゃるのですか?

岡田さん
よく尋ねられる質問ですが、一つひとつの所作をきちっとやるという心持ちです。お客様に対して「美味しいお茶を」という思いは大前提ですが、そこには自分の心(自我)ではなく、まず目の前にあるお茶(抹茶)の味を最大限引き出すように集中するということです。
そしてお茶を点てるのは亭主だけではなく、その場にいらっしゃるお客様と共につくるという意識もあります。茶の湯は「一座建立(いちざこんりゅう)」という考えがあります。一つの座(会)をみなさんでつくるという意味です。お茶を点てる所作、パフォーマンス鑑賞するのではなく、お客様も同じ空間で同じ意識でお茶と向き合うことが大切だと思っています。

茶道をたしなむことで日常生活になんらかプラスがあるとしたらどのようなことが考えられますか?

岡田さん
それぞれ感じ方があるので一概には言えませんが、お茶に触れることで、人間力が増し、より自分らしくなれたり、自由になれたり、本当の意味で人と信頼関係が築けるようになったり、大事なものを大事にできるようになるなど、豊かに生きるヒントが見つかるかもしれません。完璧じゃない自分もいるけれど、それが今の自分であり、そこには否定も肯定も必要ない「あるがまま」ということ。正直になれる人格を形成するのに、茶道の時間が何かしら貢献できるとするならば、それは茶人としてこの上ない喜びというものです。

清められた茶室に身を置く人の心得

今日は茶室にお招きいただきましたが、門扉を入った瞬間から、空気が変わり、凛として清らかな感じがしました。

岡田さん
茶道における「水」は欠かすことのできない要素の一つです。お茶そのものに使う水はもちろん、打ち水でお迎えし、和菓子をいただく楊枝「黒文字」は水で湿らせてお出しするなど、随所に水が必要になり、水は浄化作用の意味合いもあります。すべては清めのために用いられるもの。清めは儀礼的な意味合いを多く含みますが、そうすることで本来の自分と向き合う空間の準備ができたという状態になります。

シャボン玉石けんが大切にする「水」や「清めること」など、茶道が大切にしているところと通じるものがあると嬉しく感じました。では、茶人として岡田さんが日頃心がけている生活習慣や日々の心がけなどがあれば教えていただけますでしょうか?

岡田さん
根本には「悔いなきように生きたい」という思いと、「一期一会」の心を意識しています。例えば朝のルーティン。小学生の息子が学校に向かうときは、必ず玄関で顔を見て「いってらっしゃい」と見送ります。その日、その瞬間の息子はその時にしか出会えないと思うと見逃すわけにはいきません。ぐだぐだする朝もわくわく出かける朝もどんな時も二度とない瞬間だと思うと尊くて愛おしいものになるんです。自分が出ていく時も妻や息子の顔をちゃんと見て「またね」と出ていくことで、自身の心も安定するように思います。

最後に今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。

岡田さん
最近は未来のことよりも、今の自分がどのように用いられるかが大事だと思うようになりました。SNSで発信しているとオファーをいただくこともあり、そういうご縁がうれしい。「こうしたい」という気持ちが強すぎると、思いにとらわれて他の分野にアンテナを張らなくなってしまうので今はあえて思いは置かず、光の差す方へ行けばいいと思っています。今回こうしてシャボン玉石けんさんから声をかけてもらったのもその一つですね。我が家では2年ほど前から、友人の熱烈な勧めで「シャボン玉せっけんハミガキ」を使いはじめ、以来愛用しています。シャボン玉石けんのものづくりへの真摯な姿勢など、商品を通じて企業の誠実さを感じていたので、二つ返事でお引き受けしました。こうした自分が想定していない方向からの出会いも楽しみながら、お茶で生きていけることに感謝し、この先も自分のペースで歩んでいきたいと思っています。

11月から12月にかけては日本とサウジアラビア国交樹立70周年記念のイベントで世界遺産ディルイーヤ地区で茶道デモンストレーションを行い、世界30カ国1,600名の方にお茶を振る舞ってきたそうです。

型にはまらずますます軽やかに、めいっぱいの愛を持って茶道の魅力を発信されている岡田宗凱さん。最新情報はインスタグラムから。

岡田宗凱さんの公式インスタグラム

https://www.instagram.com/sougaiokada/?hl=ja