自然へのリスペクトと愛情をもってそのすばらしさを表現したい写真家 高砂淳二さん

2026.09.30

自然へのリスペクトと愛情をもって
そのすばらしさを表現したい
写真家 高砂淳二さん

世界中で雄大な自然を撮り続ける、高砂淳二さんの写真をご覧になったことはありますか? 被写体から生命賛歌が聞こえるような、美しく神秘的な作品は海外でも高く評価されています。また現在は海の環境NPO法人「The Oceanic Wildlife Society」の理事も務めており、環境問題に関する講演活動などにも精力的に取り組まれています。キャリアの出発点である水中撮影を皮切りに、いまや被写体への愛を地球規模にまで広げる高砂さん。今回は写真を通して自然と向き合い続ける、そのまなざしの原点と未来について伺いました。

高砂 淳二さん
1962年、宮城県石巻市生まれ。大学卒業後、雑誌『月刊ダイビングワールド』(当時)の水中カメラマンとして活動開始。1989年よりフリーランスとなり、世界各地で海中・生き物・風景などのネイチャーフォトを撮り続ける。国内外での写真展開催多数。写真集・著書は『この惑星(ほし)の声を聴く』『PLANET OF WATER』『Dear Earth』『night rainbow』など、30冊を超える。ロンドン自然史博物館主催の自然写真の世界最高峰「Wildlife Photographer of the Year 2022」で自然芸術部門最優秀賞を日本人で初めて受賞。また、海の環境NPO法人「The Oceanic Wildlife Society」理事も務める。メディアや講演会などで、自然の大切さ、自然と人間の関係性、人間が地球上で果たす役割などを幅広く伝えている。
【高砂淳二さん公式サイト】https://junjitakasago.com/

高砂さんの作品は海の写真が特に素敵で、吸い込まれそうな魅力があります。

高砂さん
ありがとうございます。実家が沿岸にあり、海はもともと大好きでした。でも、初めて本当に感動したのは、昔ワーキングホリデーで行ったオーストラリアの海。とてもきれいで明るくて、そこでダイビングを始めました。試しにやってみた水中撮影も面白く、「これを仕事にできたら毎日楽しいぞ」と水中カメラマンになろうと決めたんです。
帰国後、ダイビングの専門誌のフォトコンテストにたまたま入選したんです。その専門誌の編集の方に「なんでもやります!」と売り込み、バイトで雇ってもらいました。雑用もやりながら、写真は独学で学び、徐々に撮影を任されるようになり、半年後には海外にも行きましたよ。

フリーランスになったのは3年後。水中カメラマン自体が少ないので仕事はそれなりにあったんです。一方で、自分なりのスタイルを確立しようと試行錯誤を重ねました。それまでの水中写真は、強いストロボを当てて暗い背景に魚を浮き上がらせるのが主流でしたが、僕はあえてストロボの光量を抑え、自然光をたっぷり取り込んで撮影したんです。すると明るく透明度の高いブルーが表現できて、周囲からも「新しいことやってるな」と評価されましたよ。

当時は斬新な技法だったのですね。それらの写真を通して何を伝えたかったのでしょう。

高砂さん
僕がずっと魅了されていた、南の海の開放感や気持ちよさです。魚などの被写体より、水の感触や透明感を前面に出そうと意識しました。独立して最初の数年は特に楽しかったですね。すばらしい海の中で巨大なジンベイザメを眺めたり、たくさんのイルカとたわむれたり。そのうち僕の被写体の見方も変わり始め、故郷にいた頃は食べる対象だった魚たちが、僕らと同じ命を持つ仲間に思えてきました。

30歳の前後から、被写体が地上の生き物や星空などにも広がりましたよね。

高砂さん
潜水病(※)にならないために、海に潜るのは1日3~4時間だけ。それ以外はずっと陸地にいるわけです。しかも20代後半には、原因不明の(水中での)めまいが起こるようになり、ダイビングを休止していた時期もありました。そんなこともあり、陸で目にするものも、もっと積極的に撮りたくなってきたんです。そこから陸の上の生物、自然、天体や虹も撮影対象にするネイチャー・フォトグラファーに気付いたら転身していました。そうして視野を広げていくと、あらためて「世の中にはいろんなヤツがいるな」と不思議な気分になりました。海には、海底をはいつくばるナマコがいれば、人懐こいイルカもいて、陸地には、大きなゾウから小さなトカゲ、さらには空を飛ぶ鳥もいて、無数の動植物が生きている。なかでも一番変わった生き物は人間ですけどね(笑)。なぜ、どうしてこれだけの命が存在するのかとずっと自問していました。

(※)潜水病:減圧症のこと。スキューバダイビングや潜水作業など圧縮空気の入ったタンクなどの水中呼吸用の器具を使っての潜水において、高い気圧の環境から急激に低い気圧(常圧)に戻る際、体内に溶け込んだ窒素が気化して気泡となり、血管や組織に障害を起こす疾患のこと。急浮上や長時間の潜水は発症リスクを高める。潜水終了直前や終了後に発症するため潜水病とも呼ばれる。

その問いに答えは出ましたか?

高砂さん
ハワイで出会った先生のおかげで、自分なりの答えを得られたと思います。2001年頃、1か月ほどハワイに滞在していたとき、マウイ島で先住ハワイアンの智慧を伝える人に出会いました。薬草や独自のマッサージで人の病を癒したりする先住民のシャーマンやヒーラーのような方で、知識が豊富で話も楽しく、滞在中すぐに弟子にしてもらい、さまざまなことを教えてもらうことになりました。その先生が人と自然の関係について話をされた折、「なぜ多様な生き物がいるのか」「人とは何か」と尋ねてみるといろいろな気づきをもらえました。

その一つが、先生が常に口にする「アロハ」です。アロハとはハワイで愛や思いやりを表す言葉で、それがとても大切なのだと。僕も「写真を撮る相手に、お前はアロハを持っているか?」と何度も問われました。「人は他の動物とは違い、地球を壊してしまうこともあるけど、アロハを意識して生きることはできる。そのアロハを一生かけて学ぶのが人の仕事」なのだそうです。その言葉を聞き、僕も腑に落ちるものがありました。生き物にはそれぞれ役目があり、ただ存在するだけで地球が回るようになっていること。人間は、他の動植物が調和の中で暮らせるように知恵を使う必要があること……そうした世界の仕組みや循環が理解できた気がしたんです。

それはご自身の仕事にも影響しそうですね。

高砂さん
確かに、僕の写真はそこから変わりました。それまで「僕」と「被写体」は別物と捉えていましたが、アロハを意識すると相手もそのことを感じるのか、お互いの”つながり”が写真にも微妙に表れるのです。そうしてちゃんと向き合えば、こちらに好奇心を見せることもありますし、アロハとは互いを受け入れ合える関係性をもたらすものだと思います。撮影中に「相手と繋がった」と感じる瞬間は、まさに自然と一つになる感覚なんですよね。

なぜ高砂さんの写真には慈愛や温もりが漂うのか、その理由がわかった気がします。

「足ること」を知り、世界に想像力を働かせよう

また高砂さんは、1998年に発足したNPO法人「The Oceanic Wildlife Society(以下、OWS)」の理事でもあります。就任の経緯を伺えますか?

高砂さん
以前、知人と太平洋の孤島に行った時、多くの死んだコアホウドリのヒナを見たのがきっかけです。親鳥が魚やイカだと思い、海から取ってきたプラスチックをヒナが食べて胃にたまり、栄養失調になったのが原因でした。日本製のプラスチックも混じっていて、こんなに遠くまで流れてくるのかと驚きましたし、本当にその光景がショッキングで。すると後日、その知人が「海に恩返しするためのNPOを立ち上げるから理事になって」と頼んできたので引き受けました。

世界中で環境の変化が顕著になり始めたのも、ちょうどその頃ですね。大規模なエルニーニョ現象の影響で海がサンゴの墓場になったり、氷原の動物を撮りに行くと氷が薄くてヘリが着陸できなかったり……。講演会に招かれた時は、そんな自分の体験に加え、自然や地球の働きなどを話して「もっと地球にリスペクトと愛情をもって接しましょう」と訴えています。

OWSの活動についても教えてください。

高砂さん
代表的なものはサンゴ調査です。いま日本の温帯のサンゴが温暖化で北へ移動していて、その推移を国立環境研究所と一緒に調べています。また環境保全にも努めており、最近は長崎県の対馬で小型船2艇とクレーン船1艇を使った大掛かりなゴミ回収を行いました。海岸線への交通アクセスが悪く作業困難な場所でしたが、クラウドファンディングの支援もあって実現できました。

2025年にはシャボン玉石けんさんにもご寄付いただき感謝しています。シャボン玉石けんさんの企業理念や安全な商品へのこだわりを伺い、こんなメーカーがあるのかと驚きました。私は以前から旅行には固形せっけん1つ持っていくだけでいいと考えていて、石けんのよさは感じていましたが、シャボン玉石けんの使い心地は最高ですね。昨日もホームセンターで買ったばかりです(笑)。「肌にも環境にもやさしい」日焼け止め(シャボン玉UV)も作られていますよね。

はい。シャボン玉石けんでは「人にやさしいものは自然にもやさしい」という信念でものづくりをしています。高砂さんとは想いが重なる部分が多いので、今後何かご一緒できたらと思っています。

高砂さん
いいですね。昨今ではいろいろな会社からも環境負荷の低い商品が出ているし、ユーザーも増えているようですが、それでも普及がなかなか進まないのは、まだ「贅沢な暮らしは捨てられないから化学の力でなんとかして」という声が大きく、それがブレーキになっているのでしょう。誰もがある程度「足るを知る」ことが大切ですね。
それから海や大地に、もう少し想像力を働かせてほしいと思います。例えばこの土には微生物がたくさん棲んでいて、いろんな働きをしながら地球を成立させていて……といったことに。想像力がなくては「除草剤をまけば微生物が死にやがて土が死ぬ」ことにも気づけません。僕らの意識がそういうふうに変われば、状況は良い方に動くと信じています。

ご自身も日常生活で何か心がけていますか?

高砂さん
小さなことですが、野菜くずを肥料にするコンポストを自宅に置いています。野菜くずを入れて掻き回すと、微生物が分解してくれるんです。世の中の生ゴミを全部焼却炉に持っていくと大量のエネルギーを消費するので、こうして土に返す試みも大事かなって。おもしろいのは、微生物が生ゴミなどを分解する過程で微弱な電気エネルギーを発していること。コンポストに電極を入れると電気が少し取れるんです。妻と娘が中心になり「soilmate」という名でコンポスト発電の実用化に向けた取り組みを行っているのですが、クリスマスの時期にはその電気をツリーの電飾に使ったりしています。
そうしたコンポストの意義や面白さも周りに広めているところです。

コンポストは家庭菜園に使うなど、手軽にエコを体験できるのが魅力ですよね。微生物が電気エネルギーを発するというのはびっくりです。面白いですね!それでは最後に今後の目標をお聞かせいただけますか。

高砂さん
まず写真家としては、完成に近づいているプロジェクトがあるので、いい形で見ていただきたいなと思っています。また、OWS理事としては、先のような環境意識の話をいろんな形で発信したいですね。
本来、日本人は「人間も自然とひとつ」という考えのもと、自然と当たり前に共存してきました。例えば、クジラを食べた後には塚を建てて慰霊するなど、自然の恵みや命を尊ぶ文化が息づいています。森林や山、川、動植物など、人の手が加わっていない環境や地球の生態系を指す「自然(しぜん)」という言葉も、それまでは周囲の自然と人間を分ける発想がなかったため、明治期に英語の「Nature(ネイチャー)」という言葉が日本に入ってきた際、仏教用語としてあった「自然(じねん)」を当てたといわれています。それを機に人と自然の間に境界が生まれ、欧米のように「自然は資源であり、コントロールするもの」という考え方へ進んでいきました。でも、そうじゃないよね、と僕は思います。“自然のつながりの中に人がいた”という昔の感覚が僕は好きなので、日本人にはもう一度それを思い出してほしいし、海外の人にもこういう考え方があるよと伝えていきたいですね。

人と自然の架け橋となるようなそうした取り組みは、高砂さんの代表的な被写体のひとつ「虹」を連想させますね。

高砂さん
そうですね。虹を撮影するために一時期世界を巡りましたが、その時いろんな人や気づきに出会い、虹とは異なるものの間に架ける橋のようだと思ったものです。僕らの活動も、いろんなものを繋ぐ虹になれたら嬉しいです。

40年以上、世界100カ国以上で作品を撮り続けるベテラン写真家……という経歴を忘れるほどに、高砂さんとの時間は楽しく和やかなものでした。そんなやさしい人柄で自然を愛し、また愛されるからこそあれほど素敵な写真になるのでしょう。皆さんも高砂さんの作品に触れ、まっすぐなメッセージを感じてみませんか?