
毎日の習慣で健やかな人生を守る。
現代歯科医療の専門家が説く「口腔ケア」のススメ
日本歯科医学会会長・日本歯科大学附属病院病院長
小林隆太郎さん
今回、お話を伺ったのは歯科医療の最前線で活躍される歯科医師の小林隆太郎先生です。現在は日本歯科大学附属病院の病院長と日本歯科医学会の会長を兼務し、全国の講演会にも精力的に参加するなど多忙を極めておられますが、その貴重な時間を割いて語られたのは、私たちが持っていたこれまでの“歯科のイメージ”を覆す、示唆に富んだお話の数々でした。
| 日本歯科医学会会長・日本歯科大学附属病院病院長 小林 隆太郎さん 日本歯科大学附属病院病院長・日本歯科医学会会長。1984年日本歯科大学歯学部卒業。2010年同大学口腔外科教授、2021年同大学東京短期大学学長を歴任。2025年より現職。その傍ら、日本歯科医学会会長としても社会活動を行い、8020推進財団理事を務めるなど、歯科医療を通じた国民の健康福祉向上に尽力している。2012年厚生労働大臣表彰。 【日本歯科医学会公式サイト】https://www.jads.jp/ |
小林先生は、長年シャボン玉石けんを愛用いただいており、病院でも製品を導入されているそうですが、シャボン玉石けんをお知りになったきっかけはなんでしょうか?
- 小林先生
- 8~9年ほど前、シャボン玉石けんの先代社長の森田光德さんが書かれた『自然流「石けん」読本』を読んだことがきっかけです。ちょうど私が“食”について勉強をはじめた頃で、食文化や食の安全などに関する講演会があると聞けば、積極的に参加していました。その時に、いろいろな専門家の方からよく「シャボン玉石けん」の名前を耳にしていました。最初は「石けんなんてどれも同じだろう」と思っていましたが、そのシャボン玉石けんの社長の著書を周りから勧められたこともあり読んでみると、最初のページでまず心をつかまれました。石けんの話に留まらず、「自然に還る」という生き方にめぐりあえたと感じたのです。無添加石けんは短期間のうちに二酸化炭素と水に生分解され、海や川を汚しにくいこともその本で知りました。「明日からできる社会貢献は使用している洗浄剤を石けんに変えること」というようなフレーズもありましたね。そして、私は海が大好きで、仲間とビーチクリーン運動もやっており、「これは良いな」と思い、勤務する病院のハンドソープをすぐにシャボン玉石けんに変えたのです。コロナ禍においても、手洗いには石けんが有効だったため、現場で大いに活用させてもらいました。

いまや「自然に還る」は小林先生自身のテーマでもあるのですね。
- 小林先生
- はい、私の生き方の基本です。食べ物も日頃使うものも、なるべく自然なものに接しながら生きるのが自分に合っていますし、楽しく生活できています。ですので、先ほど工場を拝見したとき、石けんづくりの職人さんが石けんの出来具合を舌で確認しているのを体験させてもらい、「自然に還る」という考え方にお墨付きをもらえたようで嬉しかったです(笑)。
「自然に還る」というテーマの正しさを確信したのは、沖縄での食との出会いが大きかったですね。以前、自然な暮らしから遠ざかるほど病気が近づくことに気づき、まず生活に一番身近な「食品」と「食べること」に目を向けようと思ったのです。それを勉強するうち日本各地の食に興味を持ち始め、15年ほど前に沖縄にも辿り着きました。そこで「命を育む食事」との出会いとなりました。
沖縄は文化も環境も人も素敵ですが、特に「食」には驚かされ、影響も受けました。中国から伝わった医食同源の思想と、琉球時代の食医学書が融合し、体に良いものを食べることで健康を維持する知恵が沖縄にはあります。お年寄りは食べる前に「クスイナラチクミソーイ(薬になりますように)」、食後は「クスイナイビタン(薬になりました)」と言い、「くすいむん(食事は薬になるもの)」という言葉はまさに「自然に還る」そのもの。現地で採れる農産物も抗酸化物質や滋養成分が豊富だそうで、かつての長寿県=沖縄はこうした自然を尊ぶ環境で育まれたのです。
- 森田社長
- そうなると、食べ物を取り込む「口」は同じくらい重要ですね。小林先生が「口腔ケア」の大切さを提唱されているのはそれが理由ですか?
- 小林先生
- そうです。正確に言うと「口腔健康管理」ですね。まず歯科医師が中心となって行う「口腔機能管理」があり、次に、主に歯科衛生士が行う「口腔衛生管理」があり、そして、皆さんが日常的に行う「口腔ケア」があります。この三つが一体となった「口腔健康管理」を通して、健やかな口腔を維持していこうという意識を皆さんに共有していただければと思います。

〈注〉通常の工場見学では、見学者向けの「石けん素地の味見」は行っておりません。石けんは食べられません。
それぞれの管理の役割を教えてもらえますか?
- 小林先生
- 「口腔機能管理」は噛む・話す・飲み込むなど機能に低下がある場合の治療、継続的な管理も含まれるもので、歯科医師が中心となり対応します。つまり、歯科治療そのものなのです。「口腔衛生管理」は口の中を清潔にし、いわば悪玉菌や毒素を制御する、これも大切な仕事です。そして「口腔ケア」は、皆さんが普段から行う歯磨きなどのセルフケア。自分でそれができないお子さんや入院患者さんには、親御さんや看護職の方が行うことになります。つまりプロフェッショナルケアとセルフケア、この二本柱で口の健康を保つわけです。
「歯のケア=歯周病、むし歯の予防」と捉えている方も多いと思いますが、重要なのはこれらとともに口の機能の維持なのです。最近は口唇閉鎖力が低下したいわゆる「お口ぽかん」のお子さんも増えています。放置すると、しっかり噛む・飲み込む・唇や舌を回すなどの機能が落ちていきますので、それらを治療し支えるのが私たち歯科医療なのです。
口は「命の入り口」。積極的なケアで健康寿命を伸ばそう
それほど口の機能にこだわるのはなぜでしょうか。
- 小林先生
- 近年、口の健康が全身の健康に深く関わることが分かったからです。多くの論文により、口腔由来の細菌が糖尿病・心筋梗塞・脳梗塞・誤嚥性肺炎・骨粗鬆症・リウマチなどの疾病に関係し、また、早産にも影響を及ぼすことなども報告されています。認知症は歯周病菌の毒素が血管から入ることが一因であることも判明しています。このことをご存じでない方もいらっしゃると思います。現在は市民公開講座などでも情報発信に努めているところです。地道な取り組みですが、それでも少しずつ各地で関心が高まっており、確かな手応えを感じています。
- 森田社長
- 歯科医院は、歯が痛くなったり歯の詰め物が取れたり、「何か起きてから行くところ」と思っていましたが、これからは「予防」の意識を持って行く場所なのですね。
- 小林先生
- 歯の“治療”はあくまでも修復的なことであって、放置していて「再生」することはありません。悪くなってから行くのでは遅いので、まさに「攻めの予防医療」が大事です。実は国も理解してくれており、その一つがまもなく法制化される「国民皆歯科健診」。文字どおり国民全員を対象にした健診体制をつくろうというものです。現在、「重症化予防」「再発防止」の名目で保険適用されています。例えば「お口ぽかん」の原因である口腔機能低下や発達不全があるお子様に、約半年かけて口の訓練を施すといったことにも保険が使えるようになりました。このように国の考えも予防的考え方へ変わり始めているので、私たちも皆さんと一緒にさらなる意識改革をできたらと思っています。

セルフケアだけでは限界があるので、やはりプロフェッショナルケアは不可欠ですね。
- 小林先生
- 私がよくする例え話ですが、毎日家を掃除機がけしていても、家具の裏のコンセント周りのホコリやダニ、エアコンの奥のカビまでは落とせていなかったりしますよね。まして、床下でシロアリが柱を食い荒らしていたり、雨漏りが始まっていたりするのはプロに頼まないと気付けませんよね。それと同じで、例えば毎日歯磨きして歯をきれいに保てても、歯の周りのポケットに棲む悪玉菌などは、奥の方に隠れているのでプロにしか掃除できません。なので、3カ月か半年に1度は歯科のプロに診てもらってください。いまは昔に比べて痛みを感じない治療に変わってきています。処置後は「気持ちいい」とおっしゃる方が多いので、気軽に歯科医院を訪ねてほしいですね。私たちも「町のヘルスケアステーション」的な立場として皆さんとお付き合いしていきます。
- 森田社長
- 日本には国民皆保険制度があり、歯科医院も数多くあります。恵まれたこの環境を利用しないのはもったいないと思います。
- 小林先生
- 海外から見ると日本の医療は本当に驚異的ですよ。地域による差はありますが、救急車を呼べば10~15分で来るし、しかも無料です。日本と比べて多くの海外の国では、歯科医院の数も少なく、受診のハードルが高いうえに、たとえば義歯を入れるにしても海外なら30万円前後かかることもありますが、日本では国民皆保険制度のおかげで総義歯約3万円ほどのものが1~3割負担で済みます。いつでも・どこでも・誰もが同じレベルの医療を受けられる、いわゆる「フリーアクセス」の環境は、医療の理想形なのです。あらゆる人の健康や命がまんべんなく守られるということが、すばらしいことです。

小林先生は日頃どのようなケアをされていますか?
- 小林先生
- アメリカの権威ある医学誌によると、口腔内の常在菌(特に悪玉菌とされる嫌気性菌〈酸素がなくても元気に育つ菌〉)は、人間の平熱に近い 36℃〜37℃の環境下、かつ酸素のない状態(嫌気培養)で最も活発に増殖・培養されるのが一般的とされています。つまり、寝ている間の口の中は、まさに常在菌の絶好の培養環境になっています。ですので、私は、夜寝る直前と朝起きてすぐの歯磨きは欠かしません。歯ブラシはとても柔らかいものを使用しています。また歯間ブラシとフロスはたいへん有効なので、これは皆さんにもお勧めします。いまでは補助的な用具ではなくメインの道具となっています。
このように口腔をきれいに保っておくことで、不衛生な唾液が気道に入り、肺炎を引き起こすリスクが軽減されます。とくに誤嚥性肺炎は高齢者の死因でかなりの割合を占めていますから、お口のケアが命に直結すると言っても良いでしょう。
- 森田社長
- 本日は興味深いお話をありがとうございました。口腔ケアが健康寿命に大きく関わるというお話を伺い、シャボン玉石けんが展開するブランドメッセージ“洗おう 笑おう”は口腔ケアのスローガンとしてもぴったりだなという気づきをいただきました。また、自然に寄り添う先生の考え方や取り組みも、シャボン玉石けんの企業理念である「健康な体ときれいな水を守る。」に共鳴するものを感じました。毎日使うものや触れるものすべてが健康につながると信じて活動していますので、同じ想いを持つ小林先生に応援していただけるのはありがたいです。私たちも、歯磨きを通した口腔ケアの大事さをもっとユーザー様に発信し、“気づきのタネ”をまいていこうと思います。
- 小林先生
- 口は食べ物の入り口であり、命の入り口。口腔が正しく機能し、食べ物を取り込むことで初めて生きるスイッチが入ります。口元が整えば、自然と笑顔も増えるもの。そのために健診・診療を通して皆さんのクオリティ・オブ・ライフを支え、健康寿命を伸ばすことが私たち歯科医の最終的な目標なのです。生活環境は人それぞれですが、ぜひ小さなきっかけを見つけて、日々のケアを継続してみてください。

「歯磨き」という小さな習慣が、健康寿命さえ左右することに驚いた方も多いのではないでしょうか。なるべく“自然な暮らし”を心がけ、口の中もしっかりケアしていきたいものです。興味深く、ためになる小林先生の“講義”を聴いて、思わずこちらも気が引き締まりました。また、この場を借りて、常に充実した診療体制を整備し、日々努力されている医療従事者の方々にも感謝を申し上げたいと思います。